この裁ち鋏は鋳物製です。鋼が付いていないので鋭い刃を付けると一回開閉して刃をこすり合わせただけで、ボロボロと刃こぼれを起こしてしまいます。当然、布はうまく切れませんし、切れたとしてもすぐにダメになります。
昔、物の無い時代に、鍛冶屋さんの生産が間に合わず、裁ち鋏の形がしているだけで良いという需要に鋳物屋さんが応えたのだと思います。無理に刃をこすり合わせて切ろうとするから、反りが強くとても使いにくいです。
今だったら、百円ショップの鋏の方が数倍ましなものが手に入ります。
ところが、これが未だに腐りもせず写真のようなピカピカの状態で各家庭から出てくるのです。想像するに、使い物にならなかったから、仕舞い込んで、お子さんとかお孫さんの代に見つかるのでしょう。使わずに仕舞い込んでいるから錆びも損傷も軽微です。
こういうのがやってきたら、布を相手にしたいというのならお断りし、紙をちょっと切るなど用途を変えてでも使い続けたいということならそれなりの手入れをします。「形見」だから、切れる切れないは別にして、手入れをしてほしいというお客さんもいます。