手入れを繰り返された古い刃物がやってくると、その手際の良さとかチビても使い心地をよくするための工夫とか丁寧さとかがうかがえ「先輩に脱帽!」ということが多く、勉強になります。
ところが、今回は違いました。裏スキがディスクグラインダーか何かで荒っぽく削ってありますし、何よりいけないのはねじ下の部分(写真赤円部分)が削られています。この部分は、刃の部分を作用点とすると力点に当たり、ここの膨らみが両の刃が摺り合う力を生み出し、布が切れます。そこがへっこんでしまうと布を切ってゆく力が抜けてしまうのです。
削ることは出来ても、増やすことは出来ないのが基本ですが、ピンキング鋏の構造を参考に切ってゆく力を生み出しました。ピンキング鋏は、刃の摺り合う力が強いので、ねじ下にベアリングが仕込まれていることがあるのです。ベアリングの様に動くものではありませんが、突起を作って膨らみを再現しました。新品ならねじ下の面の膨らみ全体が擦り合うのですが、膨らみ全部を作ることは、当店の設備ではできません。そこで、この突起がピンポイントでもう片方の面をスライドすることで、同じような効果が生まれます。
本当にイレギュラーな直しなので、最初からこれをやれと言われたら断ってしまう所でしたが、諸事情でこんなことになりました。